1.概要
市販のソフトウエア無線機のモジュールを使ったトランシーバーのシステム設計を新規にやっています。トランシーバーをWindows11のPCを使って制御しトランシーバーに付属の周辺回路をPCから出力される5V電源で動かすという設計です。
ここでは、次の項目について解説します。
(1)PCからトランシーバーを制御するためのUSBシリアル変換ケーブル
(2)USB端子から出力される5Vを12Vに変換するブーストコンバータの設計
2.USBシリアル変換ケーブル
秋月電子通商で販売されているUSBシリアル変換ケーブルをWindows11のPCで使う方法を纏めておいたので次のブログを参照してください。
https://jr1ata.blogspot.com/2025/07/usb-windows.html
3.ブーストコンバータ一般論
5Vを12Vに昇圧する小型のブーストコンバータというのはなかなか曲者ですね・・・そこらで売っていないしプロはまず使わないでしょう(ブーストコンバータ自体安定性に問題があるのとスイッチモードのため軽負荷で出力を安定的に供給するのに無理があります・・・トランスで電圧変換の方が安定)。そこで宇宙機器用並みの超小型高効率なブーストコンバータを設計してみました。
4.スパイスシミュレータによるブーストコンバータの設計
超小型に作るためブーストコンバータのコントローラは市販のICを使います。回路図を次に示します。
細かい設計の過程は省略するとして(ICメーカーのデータシートに詳細が記述されている)、実際の部品を取り付けた回路の数学モデルを次に示します。
(注)状態平均化法を用いたシミュレーション回路
(注)スイッチモードの部分はアナログビヘービアモデル使用
(注)C2、R5は誤差増幅器の周波数特性を決めている(データシートより類推)
(注)R8は誤差増幅器のトランスコンダクタンスの逆数(閉ループ利得は1)
(注)R6、C3は位相補償回路
(注)V1は開ループの特性を測るための測定器(実際の回路には存在しない)
(注)E1はアナログビヘービアモデルのリミッタ(実際の回路には存在しない)
この回路のボーデ線図(Bode plots)を次に示します。
開ループ利得が零となるクロスオーバー周波数が115Hz、その時の位相余裕が39度です。これは負荷急変時のレスポンスが約10msとレギュレータとしてはかなり悪い特性ですが、もともと系が安定でないブーストレギュレータを位相補償して安定動作させているのでやむを得ない特性でしょう。
次にスイッチモードの部分の動作をトランジェント解析を使って見てみます。
負荷電流0.1A時の各部の波形です。
出力電圧リップルは約55mVでインダクタ(コイル)に流れる電流は連続モードです。
負荷を軽くして(電流を絞って)各部の波形を見てみると
負荷電流が約13mAでインダクタに流れる電流は不連続となって、出力電圧上昇、動作は不安定(発振)となります。すなわちこの回路では負荷電流が15mAぐらいまで低下するとレギュレータとして働かないことを示しているので安定動作させるには15mA程度のブリーダー電流が必要なことが分かります(インダクタの値を大きくすればもう少し負荷電流が少なくても動作しますが、負帰還ループの位相の回りが大きくなって不安定動作に近付きます)。
5.まとめ
このブーストコンバータは簡易的にPCのUSB端子から出力される+5V(またはモバイルバッテリの+5V)を同軸リレーに必要な+12Vに変換するためものでリップル電圧は大きくても小型を目指した設計となっています。他に+28Vの同軸リレーもあるのですが、この場合はこの回路形式では無理ですね・・・別途検討しますがトランスで電圧を変換する回路の方が有利だと思います。
続けて、その2では送受切り替え回路、同軸リレーのドライバ周りの設計について解説し、最後に機構設計と各種性能について説明したいと思います。
【参考】
シミュレーションはCadence社のOrCAD Pspiceを使用しました。