1.概要
昔買い集めた真空管を何とか生かしてやりたいと思いつつ時はどんどん過ぎ去っていきます。殆どが半世紀前の無線機を自作していた時のものですが、今となっては活用できるものが殆ど無くなってしまいました・・・作っても懐古趣味的だし、最新の機械に比べると実用性からほど遠いものになってしまいます。ただ今だに真空管オーディオという世界が健在であることは雑誌や秋葉原の催しで知っていたので、最後に真空管オーディオアンプで一花咲かせようと思いついたのであります。
手始めに無難なところで、
12BH7A ステレオ・オーディオ・パワーアンプ
からやってみます。続けて
12AU7 ステレオ・オーディオ・パワーアンプか
6FQ7 ステレオ・オーディオ・パワーアンプ
に挑戦して・・・同じ箱が使えますし、回路もほぼ同じ・・・出来れば聴き比べてみたいと思っています・・・球それぞれに特徴があるからです。いずれも手持ちの球で、昔の性能其のままかは疑問がありますが、出力が0.3Wクラスのミニアンプで大音響は出せませんが狭い書斎なんかで聞くのには十分かと・・・
これらで手馴らしが出来た後に、昔無線機の送信管として活躍した球を使ってやってみたいと思っています(笑)・・・無線の周波数で百ワットは出せる代物がゴロゴロありますが、多分殆どがミュージアム行でしょう(超笑)。
これらの球を使ったアンプに関しては、真空管アンプの解説本も豊富ですしネット上にもたくさん自慢話が載っております。ま~これらを真似して作っても良いのですが、ここは半世紀前に勉強したことを思い出して基本的な所からすべて自分で設計してみました。
2.設計
まず最初に回路図を出しちゃいます・・・これ基本回路は誰がやっても同じですから・・・。
12BH7Aの定格をまず頭に入れておきます。
A1級増幅器の標準動作条件を参考にして設計を進めますが、細かい所はシミュレーターを使って決めていきます。
終段、電力増幅器の数学モデルを次に示します。
電源電圧240V、5kオーム負荷、グリッドバイアスー10V、7Vopの励振で0.24Wが出力出来るようです。
これらの動作状態をプレート特性の負荷線上で見ると次のようになります。
続けて前段ドライバーアンプの数学モデルを次に示します。データシートにはプレート抵抗は約5.3kオームと記されていますが、この前段の動作状態では約15~20kオームと見込まれますし効率よく次段にエネルギーを伝送するには負荷抵抗はプレート抵抗と同等かバラツキを見込んでも数倍以下に選ぶのが良いとされているので、ここでは負荷抵抗は51kオームに選定します(次段の入力抵抗との合成抵抗は42kオーム)。
ドライバーアンプの数学モデルを次に示します。
電源電圧240V、42kオーム負荷、グリッドバイアスー7.5V、0.6Vopの励振で次段の入力に6.8Vopの電圧が出力出来るようです。
この設定で、増幅率は11程度となって出力に7Vopの電圧を得るのに入力に約0.6Vopの電圧が必要なことが分かります。この動作状態をプレート特性の負荷線上で見ると次のようになります。
続いてオーバーオールの特性を確認してみます。12BH7Aオーディオパワーアンプ全体の数学モデルを次に示します。
0.85Vop=0.6Vrmsの入力に対してシミュレーション上負荷に約0.45Wが出力され、これが設計上の最大出力電力と思われます。
全体の利得は約10dBで、周波数1kHzにおける歪は17.6%とかなり悪いことが分かります・・・ま~真空管の特性を見れば当然の結果かと・・・。
取りあえず、基本的な設計はここまで・・・歪の改善方法については別途稿を改めて解説したいと思います。
最後に電源部の数学モデルを次に示します。
電源部の性能は次のとおりで、電源リップルは1mVpp以下に抑えられます。
(注)真空管のモデルは Norman Koren のモデルを参考に自作したものです
(注)トランスのパラメーターは現物の実測値です
(注)シミュレーションは Cadence社の OrCAD Pspice を使用しました
3.実機の性能
DC特性を実測したので測定値と設計値との対比を次に示します。
電源電圧の誤差が5%以下なので、このままで各種特性測定を進めていきたいと思います。R12を470オームに変更して電源電圧を240Vに落とすという事も考えましたが大勢に影響なしと判断しました。
次回#2では実機の性能について各種特性を整理して報告したいと思います。
【御参考】
外観を次に示します。
内部の実装状態を次に示します
(注)文庫本と比較していただくと、どの位の大きさかイメージできると思います。高密度実装の為配線・はんだ付けはプロ並みの技術が必要かと・・・(笑)。電源トランスの陰にも部品があって、組立順序を間違えると配線・はんだ付けが出来ないという悲劇が・・・(超笑)。
【御参考】
12BH7Aオーディオパワーアンプ電気性能編
12BH7Aオーディオパワーアンプ機械性能編
12BH7Aオーディオパワーアンプ追補