Feb 13, 2021

Super Triode Connection 6BM8 Audio Power Amplifier #1 (超三極管接続6BM8オーディオパワーアンプの設計)

1. Overview
The power amplifier with super triode connection is a circuit topology published by  Shinichi Kamijo in "無線と実験 (MJ)" magazine in May 1991 and it seems that Shinichi Kamijo has obtained a patent about the circuit topology. The circuit is still evolving and there are many versions and reports including English are well known among audiophiles. Then, I tried to understand the circuit in my own way and tried to analyze the circuit using only the equivalent circuit of the vacuum tube and the simple arithmetic operations without using advanced mathematics. Please refer to the further analysis results with the spice simulator.
(note)
The power amplifier designed by Shinichi Kamijo can still be found on the following website operated by his younger brother.

 

1.概要
超三極管接続のパワーアンプは1991年5月「無線と実験」誌に故上條信一氏が発表した回路形式で、上條信一氏が特許を取得されているようです。今なおこの回路は進化を遂げていて多くのバージョンが存在し英文を含めレポートも巷に溢れています。それでこの回路を私なりに理解しようと思い高等数学を使わず真空管の等価回路と四則演算のみで回路解析に挑戦してみました。なお解析結果をシミュレータを屈指して補足補強してみたので参考にしてください。

(注)故上條信一氏の設計されたパワーアンプは現在でも氏の弟さんが運営している次のウェブサイトで見ることが出来ます。

2.超三極管接続パワーアンプ
今回設計した超三極管接続パワーアンプの回路を図ー1に示します。

 

Fig-1 Circuit disgram

まず回路を理解するうえで重要な真空管の等価回路を図ー2、3に示します。

Fig-2 Equivalent circuit for triode


Fig-3 Equivalent circuit for pentode

どちらも等価回路としては同じもので、三極管の場合は電圧源表示の方が、五極管の場合は電流源表示の方が真空管の動作にマッチすると思います。

3.回路解析
 パワーアンプの入力部を構成している初段の回路の特徴と動作概要は次のとおりです。肝心なところを抜き出して書き出すと次の図ー4のような回路になります。

 


Fig-4 First Stage Circuit

この回路は全体が定電流、定電圧の回路になっているという特徴があります。初段のトランジスタのベースバイアスを調整することによってR1に流れる電流を一定の値に設定できます。三極管も次段の五極管もカソード抵抗によって負帰還が掛かってカソード電圧もグリッド電圧も一定の値に保たれます。
また、この回路はパット見非常に難解ですが三極管を負帰還増幅器とみてプレートを電源入力、R2と初段トランジスタの接続点を電源出力と見たらなんとただの定電圧電源の回路じゃないですか (超笑・・・巧妙な回路ですね・・・感嘆!!)。すなわちこれ、初段のトランジスタは直流的には高抵抗で接地から絶縁されているんですが交流的には短絡接地(イマジナリーショート)されているのと等価なんです!!!!
トランジスタのベース入力にei(交流)の電圧が印可された時にトランジスタのコレクタに現れる電圧を計算してみます。これ、トランジスタの増幅率なんか関係なく計算できます。コレクタに現れる交流電圧edを計算してみます。 
id(交流)=ei/R1・・・トランジスタのベースーエミッタ間の電圧は一定とします。 
ed(交流)=-id x R2=-(R2/R1) x ei・・・位相が反転しているので負号が付いています。
となって、この回路のedは、 
ed=-5.6 x ei 
です。ちなみにトランジスタの入力抵抗はトランジスタの電流増幅率をhfeとすればhfe x R1なので数百kΩとなってLINEのインピーダンスが数十kΩでも殆ど減衰することなくトランジスタに入力されます。 
ここで、三極管のカソードを基準にして(ここは次段への出力でもあるんだけれど・・・)考えると三極管のグリッド入力交流信号edに対する等価回路は三極管の等価回路を用いて次の図ー5のようになります。

 

Fig-5 Equivalent Circuit for First Stage

 これに終段の五極管の等価回路を付け加えて全体の交流信号に対する等価回路を描くと次の図ー6のようになります。

 


Fig-6 Equivalent Circuit for Super Triode Connection

これは有名な負帰還増幅器そのものの回路と同じ構成ですが、普通の負帰還増幅器は帰還エレメントがパッシブ素子で構成されていますが、この回路では負帰還エレメントにアクティブ素子の三極管が使われているというのが大きな特徴です。

この回路の増幅度Aを計算してみます・・・増幅率uじゃないですよ(為念) 

ii = ed / rd
eo = u1ed - ii x rp1 = u1ed - ed x rp1 / rd = ed ( u1 - rp1 / rd )
A = eo / ed = u1 - rp1 / rd
u1 >> rp1 / rd ならA = u1 

次に出力抵抗Roを計算してみます。
edが一定で変動ゼロとすればrdを流れる電流はゼロで帰還エレメントの電位差もゼロなのでei = eoと考えられます。なので、出力の電流変動は全て五極管の電流源gm2 x eiから供給されます。従って出力電流が微小に変化ioした時の出力電圧変動eoは次のとおり求められます。
 
負帰還増幅器の入力電圧変動eiは
ei = eo
また、出力電流変動ioは 
io = -ei x gm2 = -eo x gm2
Ro = eo / io = - 1 / gm2 
位相関係の符号を無視すれば
Ro = 1 / gm2
となります。
 
(注)上記計算結果は、主増幅器の増幅度が充分大きいときに成り立ちます(為念)。 
 
以上の計算結果から超三極管接続の真空管増幅器の増幅度と内部抵抗(プレート抵抗)は次のとおりです。
 
増幅度A = u1 - rp1 / rd
内部抵抗Ro = 1 / gm2
 
以上の計算結果より増幅度は初段の三極管の特性で決まっていることが分かります。また内部抵抗は終段の五極管の特性で決まっていることが分かります。内部抵抗を下げる為に終段には相互コンダクタンスgmの大きな五極管が適していることが分かります。さらに驚くべきことにこの回路の内部抵抗は終段の五極管の相互コンダクタンスgmの逆数という普通の真空管の内部抵抗より小さな値になることが分かります。これを現象としてとらえて考えてみると、何らかの原因で負荷電流が変化して出力電圧変動が起こると、この変動が帰還エレメントを通して入力にフィードバックされ、その信号に応じて出力に接続される電流源から出力の変動を抑えるように電流が供給されるという事ですね。これがどういうことか、また上條信一氏が狙っていた意図が何かというと・・・真空管アンプの負荷(複雑なインピーダンス特性を持つスピーカー)へのドライブ能力の向上と低音域の改善なのではないかと思います。アンプされる電圧波形が負荷が凸凹でも急変してもほぼ元通りの波形が伝送されるという事でしょう・・・これがこのアンプの音が素晴らしいという所以でしょう。それに周波数特性の低域の遮断周波数は出力真空管の内部抵抗と出力トランスの一次インダクタンスで決まっているのですが、この真空管増幅器を使えば低域の遮断周波数を大幅に下げることが出来、小さなアンプでも迫力のある音が聞けるという訳です。
(注)低域遮断周波数 fcl=R/2πL
   Rは真空管の内部抵抗と出力トランス一次巻線抵抗の和
    Lは出力トランスの一次インダクタンス 
ここで解析の評価の参考にするために動作点における真空管の三定数を求めておきます。
三極管部 
Fig-7 6BM8 Triode Plate Characteristics -1

五極管部


Fig-8 6BM8 Pentode Plate Characteristics -1

(注)図からの読み取りなのでちょっと正確性に欠けますが・・・(為念)

4.シミュレータによる動作解析
回路解析どおりの動作をするのかシミュレータで確認してみました。初段の動作を6BM8三極管部のモデルを用いてシミュレータを動かしてみました。
Fig-9 Mathematical Model for 6BM8 Triode Circuit - 1

R2を調整してQ1で作られている定電流ソースを0.65mAdcに設定した時の各部の電圧波形を次に示します。

 


Fig-10 Waveforms of 6BM8 triode circuit

V(Q1:c)/V(Q1:b)=5.3
これは回路解析で計算した値とよく一致しています。
V(out+)/V(IN2)=5.3
これは6BM8の特性図から
Fig-11 6BM8 Triode Plate Characteristics - 2

プレート電圧200V、プレート電流0.6mAでグリッド電圧を±1V振った時のプレート電圧変動は±5Vと読み取れるので、この動作点では増幅度は約5であり、シミュレーション結果は特性図から求めた値とよく一致します。
(注)A=u1 x RL/(rp1+RL)からも求められほぼA=5が得られます
次に定電流ソースの値を動かして真空管周りのバイアスがどう変化するか見てみると
Fig-12 Mathematical Model for 6BM8 Triode Circuit -2

定電流ソースの値を増やすと真空管のカソードの電圧は低下することが分かります。このことから、定電流ソースの値を調整すれば次の終段の真空管のグリッドバイアスの調整が出来ることが分かります。ちなみにシミュレータでR2の値を振ってグリッドバイアスの調整感度を調べた結果は約2V/kΩでした。
次に終段の動作を6BM8五極管部のモデルを用いてシミュレータで確認してみました。
Fig-13 Mathematical Model for 6BM8 Pentode Circuit

プレート電流が約35mAの時の入出力の波形を次に示します。
Fig-14 Waveforms of 6BM8 Pentode Circuit

増幅度Aは約47で利得Gainは33.4dBです。
6BM8の特性図から増幅度を求めてみると
Fig-15 6BM8 Pentode Plate Characteristics -2

グリッド電圧1Vの変化でプレート電圧がざっと40V以上変化しているのでシミュレーションの値は特性図と良くマッチしていると言えます。
(注)A=u2 x RL/(rp2+RL)からも求められほぼA=49が得られます
 
次に6BM8全体のモデルを用いてシミュレータで動作を確認してみました。 入力インピーダンス10kΩの出力トランスに負荷抵抗8Ωを接続し約1W出力する条件のもとシミュレータを動かしてみました。
Fig-16 Mathematical Model for 6BM8 Overall Circuit-1

(注)R11、R12、V3は調整のために各ブロックを個別に動かす目的のもので抵抗はスイッチの替わりです

 

Fig-17 Waveforms of 6BM8 Overall Circuit -1
 
 入力0.6Vop(420mVrms)の時出力の8Ω負荷に1.2Wが出力されるようです。負帰還が掛かった状態で真空管の入力(6BM8三極管部のグリッド入力)から出力(6BM8五極管部のプレート出力)迄の増幅度Aは
A = 154/6.87 = 22.4
一方回路解析から
A = u1 - rp1 / rd = 42 - 80k / 5.6k = 42 - 14.3 = 27.7
特性図からの読み取り誤差やシミュレーションモデルの精度を考えればよく合っていると言えます。
更に入力を増やしていくと次のようになります。

 

Fig-18 Waveforms of 6BM8 Overall Circuit -2

入力0.8Vop(560mVrms)の時出力の8Ω負荷に2.0Wが、入力0.9Vop(640mVrms)の時出力の8Ω負荷に2.4Wが出力され、この時のTHDが3.9%なので最大定格出力をTHD5%の時とすればこの回路では2.5Wが最大定格出力と思われます。
次に参考として出力トランスの入力インピーダンスを5kΩに下げた場合について動作を確認すると次のようになります。

 


Fig-19 Waveforms of 6BM8 Overall Circuit -3

入力0.8Vop(560mVrms)の時出力の8Ω負荷に3.8Wが出力出来るようですが、これは6BM8の最大出力電力3.5Wを超えているのでこの辺りが取り扱える電力の限界と考えてよさそうです。参考に五極管部のプレート特性の図を次に示します。
Fig-20 6BM8 Pentode Plate Characteristics-3

次に最も興味のある内部抵抗についてシュミレータを動かして調べてみました。

Fig-21 Mathematical Model for 6BM8 Overall Circuit-2

出力の負荷8Ωに交流電流源を接続し強制的に負荷変動を起こして6BM8五極管部のプレート電流とプレート電圧の変動を測定しました。

Fig-22 Waveforms of 6BM8 Overall Circuit

 この真空管増幅器の内部抵抗Roはシミュレーション結果より
Ro = ΔV(L3:1) / ΔI(L3:1) = 1.06 / 5.55m = 191Ω
一方回路解析より
Ro = 1/gm2 = 1/6.5m = 154Ω
gm2の計算精度とシミュレーションモデルの精度を考えればよく一致していると言えます。
なお、超三極管接続の真空管増幅器のプレート特性(Vp-Ip特性)をシミュレータで調べてみると次のような特性であることが分かります。

 

Fig-23 6BM8 Overall Plate Characteristics

三極管の特性に類似していますが大きく違うところはプレート電流があるプレート電圧から急峻に立ち上がるというところです。この為内部抵抗は非常に小さい値になります。シミュレーション結果からざっくり計算すると約200Ωなので今までの解析値とよく一致します。
最後にこの真空管増幅器の電源の性能について調べてみました。
+280V電源の性能

Fig-24 Mathematical Model for 280V Power Supply

Fig-25 Output Ripples of 280V Power Supply

電源リップルは約1mVppであることが分かります・・・多分十分かと?

+5V電源の性能
 
Fig-26 Mathematical Model for 5V Power Supply


Fig-27 Output Ripples of 5V Power Supply

三端子レギュレータの圧縮度49dBは282分の1なので、電源リップルは
546/282=2mVppであることが分かります・・・実力はもう少し良いのではと?
電源の起動シーケンスについても調べてみました。
Fig-29 Mathematical Model for Startup Circuits

Fig-30 Startup Characteristics

真空管の特性からプレート電圧が立ち上がる前にグリッドバイアスが確立している必要がありますがこれはなかなか難しいです。C5は入力のDCカットのコンデンサです。この値を小さくするとグリッドバイアスの立ち上がりは早くなりますが低域の遮断周波数が高いほうにずれるので低音域の音が劣化します。C3はプレート電源の出力コンデンサでL1、L2またはC3、C4を大きくすればプレート電圧の立ち上がりは遅くなりますが形状と重量へのインパクトが大きいです。取り敢えずこれらの定数でやってみてその結果で修正を掛けたいと思います。
(参考)
この解析は最悪値解析になると思います。実際はフィラメントコールドスタートならばすぐにはプレート電流は流れないのでプレート電圧の立ち上がりにプレートに過電流が流れることはないと思われます。グリッドバイアスを作っている初段がフィラメントの無い固体回路である理由はこういう事なんですね。 
 
5. Conclusion
The Super Triode Connection 6BM8 Audio Power Amplifier was designed and the design was verified using a circuit simulator. In the near future, I would like to establish the theory and design method of the super triode connection by checking the performance after procuring parts and assembling. 
 (note) The vacuum tube models were made by myself with reference to Norman Koren's model.
 (note) The circuit simulator used in the simulation was Cadence's OrCAD Pspice.
6BM8を用いた超三極管接続のオーディオパワーアンプの設計を行い、その設計の検証をシミュレータを用いて行いました。今後部品調達と組立そして性能確認の作業を行い超三極管接続の理論及び設計手法を確立したいと思っています。
(注)真空管のモデルは Norman Koren のモデルを参考に自作したものです
(注)シミュレーションは Cadence社の OrCAD Pspice を使用しました

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